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2月の音
小さなカウンターの中にはぎっしりレコードが詰まっている。持って帰っているものもあると思いますが、今あるだけでも1000枚くらいはあると思います、と答える男性は、この店の店主ではなくてアルバイトだ。店主はもうここに立つことはない。いま店でグラスを傾けている誰もが、彼の不在を悼んでいるのがわかる。
知人がリクエストしたレコードがターンテーブルに載り、If you saw thro' my eyes what would you do、と歌う。カウンターの中から店内を眺める主の透明な視線を感じる。音楽との親密な時間を愛する人への慈愛のような空気。2月のこの部屋に流れていた音を、私たちはきっと忘れないだろう。
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