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11月の雪

初雪が降った、と実家の母からメールが届いた。

そのとき私は旅先で、雪ではなかったけれどかなり寒くて、滞在先では薪ストーブが燃えていた。手をかざして暖をとっていると、昔はこうやってやっぱりストーブの近くで暖まっていたのを思い出す。実家を出てからはエアコンや電気カーペットくらいしか暖房器具は使っていないので、懐かしい感覚だ。

東京に戻ってきて数日後、そろそろこちらでも暖房をつける季節かなあ、とひとりぼんやりと座っていた。窓辺では白いカーテンが雪のように、夕暮れの気配を帯びた光に照らされている。ふと、そろそろ父の命日だと思い出す。亡くなった日に飛行場から病院へ向かうとき、そして出棺のとき、千切れた紙のような雪がちらちらと舞っていた。あの年から、冬のはじまりは父の終わりの記憶になった。

 

雪が降る景色や空気は、記憶の日陰を覗けば、人生のどの季節にも溶けずにちゃんと残っている。ひんやりと冷気を含んで、私自身のように。

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